ビールの苦みのお話
こんにちは。
新入社員の山宮です。
仕込みのアシスタントとして、
佐々木品質管理部長の元で、
モリモリと働いております。
おかげさまで、段々と仕込みの頻度も増えてきたので、
楽しいです☺️
さて、これまで学んできた醸造の知識をアウトプットするために、
伊勢角の美味しさの秘密、と銘打って、
ビールの仕込み工程について、いろいろ書いてきました。
次なる工程はワールプール(Whirlpool)のはずなんですが、
今回はちょっと切り口を変えて、書かせていただこうかと思います。
伊勢角のビールといえば…???
定番のペールエールやNeko NihikiのようなNew England IPAなど、
ホップが効いたビールが連想されるのではないでしょうか。
伊勢角のビールって、
ホップのフルーティな香りがしっかり効いているのに、
意外と苦くないですよね。
実はこれは狙って造っていて、
理由があります。
今回はビールの苦味について、
掘り下げて語らせていただこうと思います。
駄文拙筆ですが、何卒よろしくお願い致します。
(3000字くらいあります)
2. IBUについて
3. ホップを煮なければ苦くないのか
4. ビールの苦みとトータルバランス
1. ビールの苦みの素?
ビールといえば、苦い飲みもの、というイメージがあるのではないでしょうか?
苦味が全く/ほとんどないスタイルのビールも存在するのですが、
多くのビールはそうでないでしょう。
ビールの苦みの多くはホップに由来します。
焙煎した麦芽や酵母、副原料などに由来する苦みもあるので、
スタイルによりけりで一概には言えないのですが、
主として、ホップがビールの苦みの素となっています。
一般的にビールに含まれるホップ由来の苦みというのは、
イソα酸という成分が原因だと言われています。
イソα酸は、ホップのルプリンという黄色い粉の中に含まれる樹脂成分であるα酸が、
熱によって変化(イソ化)することで生成します。
α酸は水に溶けにくいのですが、イソ化することで少し溶けやすくなります。
ビールの仕込み工程の中の麦汁を煮沸する行程で、
投入したホップのα酸がイソα酸に変化し、
ビールに溶け出すために苦くなる、ということです。
ホップに含まれるα酸の量は、品種や栽培年度、栽培地などによってバラバラです。
少量の使用で凄く苦くなってしまうホップもあれば、その逆もあります。
目的の味のイメージに合わせて、どのホップをどれだけ使うかを決めていくんですね。
2. IBUについて
ビールの苦さを測る指標として、IBUというものがあります。
IBUはInternational Bitterness Unitの略で、
苦みの国際基準単位というような意味でしょうか。
その内実は、イソα酸の濃度に対応しています。
IBU = イソα酸濃度[ppm]
です。
この指標はホップのα酸量と、麦汁へ投入後の煮沸時間から推定できるとされていて、
新しくビールのレシピを決めるときに、
どれぐらいの苦さのビールにするかを決めるのに利用されます。
一方で、飲み手にとってもビールを選ぶうえで参考にできる指標でもあります。
クラフトビールを飲めるお店に行った時に、
ビールのメニューに、IBUを書いていることがあると思います。
今日は軽めにIBUが低めのビールを選ぼうかな〜、とか
ガッツリIBU100超えのIPA飲んじゃお〜、とか
飲んだことのない銘柄のクラフトビールを選ぶ上では、
役に立つ情報だと思います!
3. ホップを煮なければ苦くないのか
さて…
IBUという指標がビールの苦味を推定する上で役に立つよっ
というお話をしてきました。
ここからは、IBUの信憑性について議論して行きます。
先ほどの話を覆すようで、すみませんが、
IBUはおおよそのビールの苦さを知る上では役に立つのですが、
正確な数値指標とは言い難いのです。
特に最近人気のNew England IPAにおけるIBUは信用しないほうが良いと思います!!
ビール醸造に少し踏み込んだ内容であり、
また、書いている本人も100%理解しているわけではないので、
少し混乱する内容かもしれません。
しかしながら、
誰にでもわかりやすくを心がけて書いていきますので、
よろしくお願いいたします。
それでは、表題の通り、ホップを煮なければ苦くないのか
というところからです。
ホップの毬花を見たことはありますか?
このようなコーン状の形状をしていて、めちゃめちゃ良い香りがします。
僕は初めて生のホップを見たとき、
美味しそうだな〜と思って、丸かじりしました。
そして、悶絶しました。
なぜか?
めちゃめちゃ苦かったからです。
そう、ホップは煮なくても苦いものなのです。
苦味を感じるということは、舌に苦味成分が溶け出した、ということです。
渋抜きをした柿が渋くないのは、
渋み成分のタンニンが不溶化しているからですが、
同じ理屈で考えると、
ホップは煮込まなくても可溶性苦味成分を持っている
はずです。
先ほどIBUはイソα酸の濃度であると説明しました。
しかし!
変化する前のα酸も少しだけ水に溶けます。苦いです。
(その苦さはイソα酸の10%程度と言われています。)
しかも、α酸は過酸化で、水に溶けやすくなり、
もっと苦い物質に変化します(イソα酸の60%くらい)。
ホップは煮なくても、ビールを苦くする力を持っているのです。
以前、Anglo Japanese BrewingさんがIBU Naiという
理論上、IBU0というビールを作られていました。
このビールはすごい華やかなホップアロマでした。
IBU 0と標榜しながらも、ホップを使っているとなると、
おそらくは、煮沸工程以後にホップを使用しているのでしょう。
抑え目ではありましたが、苦みは感じました。
実は、煮沸終了後にホップを投入する手法は、
伊勢角も採用しています。
New England IPAをはじめとする
華やかな香りながらも、飲みやすい程よい苦味のビール造りには欠かせません。
最近ケグでリリースしたDDH Hazy IPA 未来でも煮沸工程にはホップを投入してません。
(ボトルはもうしばらくお待ちください🙇♂️)
ビールにイソα酸以外のホップ由来の苦味成分が存在するということがわかりました。
では、なぜイソα酸だけに注目したIBUという苦味の指標がこれまで用いられてきたのか?
これはあくまで僕の個人的な推測になりますが、
“ビール醸造において、ホップをしっかり煮ることが当たり前だったからではないか”
と思います。
イソα酸の苦味は他の成分に比べて強いため、
煮沸工程以後に投入されたホップによって生じた苦味は、
相対的に小さくなります。
だからホップの大部分を煮沸工程で投入することが当たり前だった時代には、
IBUという指標が有効だったのだと思います。
しかしながら、時代は変わってきて、
煮沸工程にホップをいれず、
その後の工程でこれまででは考えられない莫大な量のホップを投入するビールが登場してきました。
New England IPAやHazy IPAが代表的ですが、
それに派生して、クリアな外観のアメリカンIPAにおいても、
煮沸工程以後のホップ投入量が増えてきたのではないでしょうか。
そのようなビールにおいては、イソα酸以外の苦味が台頭してきます。
IBUでは計れない苦味が強く感じられるのです。
まとまらない話になってきましたが、この章での結論を言うと、
最近のビール、特にNew England IPAのIBUを鵜呑みにしてはいけない
ということです。
4. ビールの苦味とトータルバランス
伊勢角のNeko NihikiのIBUは35です
が、これまでの話からすると、本当はもっと高いはずですよね。
ビールのサンプルからIBUを計測する実験手法があって、
伊勢角ではビールを作るたびに計測しています。
この手法はイソα酸だけではなくて、
ホップに特徴的なα酸とβ酸という2種類の酸の構造類自体を
まとめて検出するという特徴があり、
長所であり欠点でもあるのですが、
先ほど述べた、酸化したα酸も含めた量を検出します。
ねこにひきの実測値は少し高い50~60くらいです。
酸化したα酸は苦味がやや弱いので、体感としてはもう少し低いかもしれません。
実はNeko NihikiはオーソドックスなアメリカンIPAと同じくらいの苦さがあります。
でも、全然苦く感じないのではないでしょうか??
不思議に思いませんか??
これには訳があります。
平たく言えば、甘みが苦味を隠しているからです。
コーヒーに砂糖やミルクを入れると飲みやすくなるのと同じです。
New England IPAにおける甘みとは何かというと、
1. 酵母が食べられずに残した三糖以上の大きな糖成分
2. アルコール
3. ホップのフルーティ/トロピカルな香り
が最も大きな要因だと思います。
大量のホップの投入で生じる苦味を補うビールの酒質調整がブルワーの腕の見せ所ですね😊
Neko Nihikiはトータルでのビールのバランスが綿密に計算されたレシピ設計なんです。
さすが出口BM🙌
今回も長文をご精読ありがとうございました。
ブルワーになるべく、これからも精進して参りますので、
これからもよろしくお願いいたします。
山宮