伊勢角屋麦酒ブログ

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[伊勢角news] 伊勢角の美味しさの秘密 ~マッシング編~

こんにちは。新入社員の山宮拓馬です。

 

5月も終わりが近づいてきて、暑くなってきました。
下野工場の周りは田んぼがたくさんあって、
最近は出勤しながら、お米が日々成長していっているのを眺めています。

自分は、大学でイネの育種を専攻していたので、
去年の今頃は田んぼの中を踏み歩いていました。
こうして、イネの成長を見ていると、微笑ましくも懐かしくもありますね。

 

さて、前回の投稿では、新入社員の目線で伊勢角の美味しさの秘密を語ろう、
ということで、モルトミルについて解説させていただきました。
引き続き、今回はマッシングについて書かせていただきたいと思います。

新入社員の書くことですので、間違いもあるかもしれませんが、
暖かい目で見守ってくださると幸いです。
そしてこっそり教えて下さると嬉しいです。

 

目次
1. マッシングとは? 
2. 科学的視点から見たマッシング
3. 伊勢角のマッシングへのこだわり[/su_note]


1. マッシングとは?

前回はモルトミルというビールの4大原料の1つである麦芽(Malt)を
破砕する行程を紹介いたしました。
モルトミルの次の行程がマッシング(Mashing)になります。

 

マッシングとはなにか?

端的に言えば、破砕した麦芽をお湯で煮る行程です。
麦芽のエキス分、すなわちビールの素を抽出するための準備をするんですね。
マッシングに続く行程の”ロイター”では、麦芽で濾過層を作り、
マッシングで液中に溶け出たエキス分を濾し取ります。

最終的に出来る麦汁に残るエキス分はほとんどマッシングから抽出されています。
酵母が働きやすい環境を整えるために、マッシングは非常に重要な行程です。

 

 

2. 科学的視点から見たマッシング

ここまでで、マッシングについてざっくり方法と目的について
理解してくださったのではないか、と思います。
ここからはさらに深堀りしていきます。

 

先程は、マッシングは破砕した麦芽をお湯で煮る行程だと述べました。
しかし、ラーメンのスープを作るときにトンコツを炊く時のように、
グツグツと沸騰したお湯で麦芽を煮るわけではありません。
マッシングでは、麦芽をおよそ63℃から68℃くらいのお湯に浸けて置くことで、
麦芽に含まれるでんぷん、タンパク質、ミネラル分といったエキス分を
煮出していきます。

「エキス分をいっぱい取りたいなら、勢いよく炊いた方が良くない?」
とお考えの方もいらっしゃるかと思うのですが、
このように少し低い温度で麦芽を煮るのには訳があります。

それは、酵素の力を借りて、麦芽中のエキス分をより細かい形に分解して
お湯に溶けやすく、使いやすい形に変化させるためなのです。

 

 

これがマッシングを行っている釜です。
釜の中で、麦芽とお湯が混ざってできたマッシュが白く泡立っています。

 

マッシュで働く酵素
麦芽中のでんぷんを分解するのは、アミラーゼという酵素です。
麦芽中にもともと含まれるαアミラーゼとβアミラーゼという2種類の酵素が
力を合わせて、でんぷんからマルトース/麦芽糖というビール酵母が
1番利用しやすい栄養素を作り出していきます。
これら2つのアミラーゼが働きやすい温度が63℃~68℃のため、
マッシングの温度がそう設定されることが多いのです。

マッシングで活躍する酵素はアミラーゼだけ、というわけではありません。
でんぷんを分解する酵素だけではなく、
タンパク質を分解するペプチダーゼという酵素や
βグルカンという細胞壁を構成する成分を分解する酵素など、
様々な酵素が麦芽中には含まれており、
アミラーゼが活性をもつ温度より少し低い温度帯で活躍します。

 

マッシングを捉えなおす
マッシングという行程は一見単純な操作行程に見えるのですが、
様々な酵素の働きがダイナミックに組み合わさって、
ビールの素となる麦汁の素材を作りだしています。
なので、マッシングでは、どの酵素にどれだけ働いてもらうことで、
麦芽中のエキス分、すなわち糖分、タンパク質、ミネラル、etc…を
有効な形で溶出させるか、ということを、作りたいビールの味わいの
ターゲットに合わせてコントロールしていく必要があるんですね。

 

3. 伊勢角のマッシングへのこだわり

さて、ここまでマッシングという行程の概要を説明させていただきました。
美味しいビール造りのために、マッシングを上手にコントロールすることが
大切であることが理解できたのではないでしょうか。

 

伊勢角では美味しいビール作りのために、マッシングでは主に2つのポイントに
こだわりがあります。

A. 温度の管理
B. 水質の調整

どちらもマッシング中の酵素の働きやすい環境を整えてあげるためのポイントに
なります。

 

A. 温度の管理
1つ目のポイントは温度の管理です。
目的の酵素が働きやすい温度になるように設定します。

こういうと、なんだそんなことか、簡単じゃないか、という人が、
渋谷のスクランブル交差点の人ごみの中から現れそうですが、それは早計。
これが意外と難しいのです。

まず、麦芽とお湯を混ぜて、目的の温度にするのが難しい。
だいたいの場合、目的の温度にはならないので、マッシュタン(マッシングを行う
釜んのこと)を加熱し、温度を調整していくのですが、
麦芽とお湯が混ざった液体(これをマッシュと言います)は熱伝導性が低く、
マッシュ内での温度ムラができやすいのです。

ちょっとした温度の違いで酵素の働きは大きく変わり、
作りたいビールとはかけ離れたものが出来上がってしまいます。

 

伊勢角の仕込み設備はドイツのロレックというメーカーのものなんですが、
オートメーションシステムで、目的の温度に向けて、加熱の調整をしたり、
温度ムラができないように釜内の羽を回して攪拌したりします。

すごいかしこいっ!

そんなわけで、伊勢角ではビールに合わせて、マッシングの温度をしっかり
コントロールすることで、美味しいビール作りをすることができているのです。

 

B. 水質の調整
2つ目のポイントは水質の調整です。
その目的はpHの調整と適度なミネラル分の供給にあります。

さらに化学の話になるので、苦手な方には恐縮なのですが、
酵素には働きやすい温度があるのと同時に働きやすいpHがあります。
pHというのはその液体が酸性かアルカリ性かという指標です。

一番活動して欲しいアミラーゼにはpHが5.2~5.7という弱酸性の範囲が
1番良いそうです。

また酵素の働きは水分中のミネラル量も関係しています。
カルシウムがあるとアミラーゼが働きやすいという話を聞きました。

 

 

実際の仕込みの現場では、他の酵素の働き易いpHも考慮しながら、
ターゲットとなるマッシュのpHと水質を決めて、その目的の値になるよう、
この怪しげな透明の液体や白い粉で、水質を調整します。

怪しげな液体と粉ですが、もちろん食品添加物なので安全です。
なにかわからないと不安だよ、という皆様のために、説明させていただきます。

透明な液体の方は乳酸です。
ヨーグルトにたくさん含まれる乳酸菌が作り出す、柔らかい酸味の物質です。

粉の方は、マグネシウムやカルシウムなど、いわゆるミネラル分の粉末です。
日本の水は軟水ですが、海外のVolvicやPerieといった鉱泉水には
こういったミネラル分がたっぷり含まれています。
仕込み水にこういったミネラル分を加えることで、酵素の働きを活性化させたり、
ビールの口当たりを変えたりしています。

 

今回は伊勢角のマッシングへのこだわりについて解説させていただきました。

前回よりもさらに科学的な話になり、難しかったかもしれませんが、
なんとなく、伊勢角って科学的にビール作ってるんだ!って思っていただければ、
幸いです。

醸造を科学して、改善活動を積み重ねてきた結果が、
これまでの世界大会での数々の入賞につながってきました。
これからもますます美味しさビールを作れるよう、
僕も早く一人前になって、貢献していきたい所存です。

 

長くなりましたが、ご精読ありがとうございました!

 

山宮

 

 

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